「スキルをかけ算したライターが最強」はウソである。そう言い切れる3つの理由

ライティングに関する記事や書籍を読んでいると「スキルをかけ算したライターが最強!」という一節をよく見かけます。これはライターに限らないのですが、フリーランス界隈では「スキルのかけ算」がとにかく重要視されているのが現実です。実際、私もそう思っていた時期がありました。

しかし、果たして本当に「スキルのかけ算=最強」といえるのでしょうか? 少なくとも、いまの私は言えないと断言できます。

では、私がなぜそう考えるようになったのか。「スキルのかけ算」の実態と、ライターに本当に必要なスキルを考えていきます。

1. 「スキルのかけ算」とは

一般に「スキルのかけ算」は、本業のスキル×付随するその他のスキルを何重にもかけ合わせていくことを指します。本業のスキルだけでは競争相手が多くても、何重にもスキルかけ合わせれば、「誰にも真似できないオンリーワンの人材になれる」と言われます。

確かに、例えば「ライター」というだけだと、世の中には大量に競争相手がいます。しかし、沖縄出身で銀行への勤務歴があり、現在は主婦としてWebライターをやっているとなれば、“沖縄出身金融系主婦ライター”となり、差別化には成功していそうです。

また、「沖縄出身」「銀行勤務歴あり」「主婦」という要素も、一つひとつでは強力な個性とはいえない一方、組み合わされば十分個性といえるでしょう。誰しも自分の人生を振り返れば組み合わせられる要素がいくつかは見つかるものですし、万人にあてはまる生存戦略と捉えられるのも理解できます。

2. 「スキルのかけ算=最強」とはいえない3つの理由

ここまで見た限り、たしかにスキルをかけ算しているライターは個性を発揮できていそうですし、仕事も増えていきそうな気がします。

しかし、残念ながら現実には「スキルのかけ算はできているのに仕事が増えない」というライターも多いです。この時点で、「スキルのかけ算=最強」が成り立たないことは証明できます。

では、なぜスキルをかけ算しても最強のライターになれないのか、その理由を3つほど考えてみました。

1. そもそも本業のスキルが足りない

身も蓋もないですが、そもそも本業のスキルが足りないといくらスキルをかけ合わせても効果が薄れます。

仮に「UAE出身で、学生時代にサッカーで全国大会に出場し、コンサルになって数多くの事業を成功に導いた経験のあるライター」だったとしても、肝心のライティングスキルがいま一つでは結果を残せないでしょう。最初は肩書の珍しさから執筆依頼が入っても、シビアな世界なので、書けないライターの仕事は途絶えます。

超がつくほどの有名人なら多少ライティングスキルが足りなくともメディアから引っ張りだこになる例はありますが、私たち一般人には縁のない話。

そのため、「スキルのかけ算」に精を出すより、地道にライティングスキルを伸ばしていったほうが仕事は増えるのです。

実際、ライターのなかには「これといった強い個性はありません」という人もいます。しかし、そういう人でもライティングスキルがしっかりしていれば、ライターとして十分戦えます。とくに取材系ライターの場合は「自分が知らないことを聞く」のが仕事なので、取材対象者から言葉を引き出し、しっかり記事にできれば問題ありません。

2. ありきたり×ありきたりは差別化にならない

「スキルのかけ合わせ」はフリーランスノウハウとして広まっているので、多かれ少なかれ意識している人は多いです。これはつまり、「スキルをかけ合わせても誰かと被ってしまう」ことを意味します。

たとえば、「旅行×主婦×ライター」を売りにしているライターがいたとしましょう。確かにスキルのかけ合わせには成功していますが、現実にはこの3属性をもつライターは大量にいるため、ほかのライターに比べて差別化ができているとはいえません。

そうなると、メディア側は「その中の誰に記事を書いてもらおうか」と思ったとき、ライティングスキルが長けているライターか、インフルエンサーを選びます。このように最低限の差別化はできても、スキルのかけ合わせだけでは仕事を得るには不十分なのです。

3. 相乗効果のないかけ合わせはあまり意味がない

最後に考えられる原因は、「かけ合わせても相乗効果が無い」こと。先ほど例に出した「沖縄出身金融系主婦ライター」が代表例ですね。

確かに、沖縄出身で銀行への勤務歴があり、現在は主婦としてWebライターをやっている人は、ほとんどいないかもしれません。しかし、これだけスキルをかけ合わせても、「この人に仕事を頼みたい!」というライターにはなれていないのです。実際、「沖縄出身金融系主婦ライターだけに書ける読まれそうな企画」はあまり思いつきません。

こうなってしまう理由は、どのスキルも個性というには弱く、組み合わせても相乗効果が出ていないから。それぞれ分野が離れており、要素は多いものの、「だから何ですか?」と言われてしまうでしょう。

まとめ:「確かな本業のスキル×個性的なスキルのかけ合わせ」は確かに最強だ

ここまで、「スキルのかけ合わせ=最強」とはいえない現実を伝えてきました。

しかし、誤解のないように言うと「スキルのかけ合わせ」が効果的になる状況も多いのは間違いありません。スキルのかけ合わせを効果的にするには、とにかく本業のスキルをプロレベルに仕上げること、これを意識してください。

現実には、プロの名に恥じないスキルを持っているライターもごまんといます。そうしたスキルがあれば、多少の差別化でも十分な効果を発揮します。

私自身、ライターとして駆け出しのころは「歴史×旅行×ライター」として売り出していましたが、それほど大きな仕事ができていたわけではありませんでした。しかし、それなりにライティングスキルを伸ばした結果、大河ドラマの宣伝にかかわるなど、昔に比べればずいぶん仕事の質が上がったと思います。

かけ合わせるスキルが何も変わっていないのに仕事の質が上がった。このことが、スキルのかけ合わせの本質を示しているのではないでしょうか。

ABOUT US
齊藤 颯人
『Red Pencil』編集長、FP事務所『トージンFP事務所』代表。1997年東京生まれ。上智大学文学部史学科卒業。大学在学中より学生ライターとして活動し、卒業後はそのまま新卒でフリーライターに。歴史やフリーランス、旅行記事などを中心に執筆し、フリーランスメディアで編集者としても活動している。