そもそも、編集とは何なのか?なぜ記事を編集する必要があるのか、基本から編集を考える

ライターにとって、記事を書いた後に「編集」をされるのは当たり前です。また、メディア側も、ライターが書き上げた記事を「編集」するのは当たり前になっていますよね。

でも、皆さんは「そもそも、なぜ記事を編集する必要があるのか」を考えたことはありますか? 考えたことがなければ、ぜひ一度立ち止まってみていただきたいのです。

それはなぜか。答えは、記事を出すのに「執筆」が必須なのに対し、「編集」は必須ではないから。事実、この記事はだれの編集も入っていません。

では、わたしたち編集者はなぜわざわざ手間をかけ、ライターが書いた渾身の文章を「編集」するのでしょうか。ここでは、編集の原点に立ち返ることで、本当に必要な記事の編集について考えていきます。

1.編集が必要な6つの理由

記事の編集が必要な理由は「より良い記事をつくるため」だと思っている人も多いでしょう。これも間違ってはいないのですが、わたしは回答として不十分だと思っています。では、答えを言う前に「わたしが考える、編集が必要な理由」を述べてみます。

1.責任を取るため

初っ端からぶっちゃけてしまうと、「責任を取るため」という側面は間違いなくあります。ライターの記事が原因で何か悪いことが起こる可能性は十分にあるため、作業者のほかに「責任者」が必要です。

そこで、たいていの場合は編集者がその役割を担います。もちろん、ミスが起こればライターも責任を負うのですが、メディア内部では記事にゴーサインを出した編集者の責任となることが多いですね。

2.誤字脱字、てにをはの間違いなど、基本的な文章のミスを修正するため

ライターは、言ってしまえば日本語のプロ。しかし、そんな彼らでも文章にミスがあることは珍しくありません。日本語の奥深さからくる無知ゆえのミスにくわえて、頭ではわかっているのに原稿上では間違えてしまったケアレスミスなど、多くのパターンが考えられます。

原稿を書くライターは案外その間違いに気づけないもの。ここで第三者による「編集」が入ることで、ライターが犯した間違いをフォローできます。

この場合、「日本語」という正解があるので、編集の難易度はそれほど高くありません。ただし、本来は間違いじゃない文章にツッコミを入れてしまうと、ライターと喧嘩になってしまうのでご注意を。

3.事実関係を確認するため

日本語と同様、事実関係に間違いがある場合も修正しなければなりません。たとえば、「2001年に発生した東日本大震災で~」という一文があれば、発生した年を修正する必要がありますよね。

これも「正解」があるので編集の難易度は低めですが、なんとなくで読んでいるとミスを見落としてしまったり、そもそもの知識不足で間違いが分からなかったりということも考えられます。

4.文章を読みやすく調整するため

記事を編集するのは、なにも日本語的に間違いがある場合だけではありません。

  • 日本語的には合っているが、意味が分かりづらい
  • 文章や段落を入れ替えたほうが読みやすい記事になる
  • 表や画像を追加・修正、削除する

……など、「こうしたほうがより読みやすい」という場合も修正を加えます。

ただし、これは正解があるものではないため、編集者としての「感性」が問われています。多くの記事を読み、多くの文章に触れ、そして編集の根拠をライターにしっかりと説明できるよう努めなければなりません。

5.「炎上ポイント」を確認するため

昨今、SNSの普及により、記事が炎上してしまうことも珍しくなくなりました。炎上はメディアやライターの命運を左右することもあるので、炎上の匂いをかぎ分ける力は必要です。

一方、どこからを「バス」で、どこからを「炎上」と捉えるかはメディアによって異なります。記事が少しでもネガティブに拡散されることを嫌うメディアもあれば、賛否両論が巻き起こって議論の応酬になることを許容するメディアまで、対応はさまざま。

ただし、どんなメディアにせよ、「ここは炎上するかもしれないな」と感覚を働かせ、炎上を嫌うメディアなら修正を、炎上をよしとするメディアでも「炎上するかもしれない」というリスクをデスクやライターと共有することが求められるでしょう。

6.トンマナや表記など、メディアのルールに合わせるため

記事に間違いはなく、めちゃめちゃ読みやすく、炎上しなさそうな記事だったとしても、やらなければいけない編集がもう1つあります。

それは、メディアのほかの記事と統一感を出すために「トンマナ(表記ルール)」に沿った形で記事を修正する作業です。メディアは別々のライターが書いた記事でも、体裁を整えるために統一感を求める傾向にあります。

そのため、メディアのルールをよく確認し、同時にライターともそれをよく共有しましょう。そのうえでルールに沿わない部分は修正していくことになります。

2.編集する上で意識したいポイント5つ

ここまでの「編集が必要な理由」を見て、「より良い記事をつくるため」という先ほどの回答が物足りない理由がわかったでしょうか?

上記の5つの理由を分析してみると、単純にいい記事をつくるためだけではなく

  • ライターのため
  • メディアのため

といった大人の都合も関連していることが分かります。

それを踏まえたうえで、「記事を編集するうえで意識したいポイント」を考えていきましょう。

1.編集は一か所もしないのが一番

編集者がよく誤解しがちなポイントですが、「編集はないのが一番」です。つまり、編集者が仕事をしないで済む原稿があるなら、編集者は何もしなくていいのです。

しかし、調子に乗った編集者は「オレがこの原稿をもっと良いものにしてやる!」とクリエイター感覚を持ってしまいがち。もちろん、編集者の仕事は「原稿を生まれ変わらせること」ではないので、その感覚を持ってはいけません。

2.原稿、ライターには敬意を払おう

編集する原稿は、ライターが全力で書き上げたもの。基本的に、「原稿を直させていただく」という気持ちを持ち、リスペクトを忘れないようにしましょう。

……とはいえ、編集者をしていると、ときには「あまりにも酷い原稿」に出会うこともあります。その場合はライターに書き直しを要求してもいいのですが、そうなった背景には

  • 編集者の指示が悪かった
  • ライターの選定プロセスに問題があった
  • その記事ネタをそのライターに任せるべきではなかった

……など、いろいろな原因が考えられます。ライターを一方的に責めるのではなく、そうなってしまった原因を考えることも大切です。

また、ライターに編集箇所やフィードバックを伝える際には、なるべく丁寧かつ分かりやすい形で伝えることを心がけましょう(わたしもついおろそかになりがちなポイントです……自戒)。

3.編集箇所の「根拠」を明確にしよう

編集するうえで絶対にやってはいけないのは「なんとなく」編集することです。なぜなら、本来編集する必要のない原稿に手を入れる以上、編集する何かしらの理由がないといけないから。

先ほどみた、日本語や事実関係の間違いであれば皆さんでも理由を説明できるでしょう。「間違っているから」でOKです。

しかし、前にも触れたように「間違ってはいないけど、感覚的に読みづらかったり、もっとよい書き方があったりする」という場合にも編集は必要です。そして、この場合でも根拠をもって編集しましょう。

根拠を数字やデータで説明しなくても大丈夫。ただ、たとえば「読みづらい」という場合は「漢字が多すぎて読みづらい」「同じ単語が何回も出てくるから読みづらい」など、編集の理由を明確にすることが大切です。

こうすることで、仮にライターから「どうしてここを編集したんですか?」と聞かれた際、その根拠をしっかり説明できます。逆に言えば、それが説明できそうにない箇所を編集してはいけません。

4.ライターの編集に対する意見には耳を傾けよう

編集した原稿をライターに戻すと、編集に対して意見が返ってくることも珍しくありません(わたしも、ライターをしている際はそうすることもあります)。

しかし、返ってきた意見に対し「コイツ、オレの編集にケチつけてくるのか」とキレたり、無視したりするのはNG。なぜなら、ライターは編集を入れられた時点で、同じような思いをしているから。編集の必要性も分かりますし、納得できる箇所がほとんどだったとしても、自分の原稿に修正が入るのは楽しいことではありません。

それだけでなく、ライターの意見は参考になるものも多いです。たとえば、インタビュー記事で「マジ、やべえっす!」と書かれた一文を「本当に凄かったです」と書き換えたとしましょう。しかし、それをライターに見せたところ「インタビュアーがそう言っていたので、空気感を再現するためにあえて表現をそのままにしました」という意見が寄せられました。

この意見は、大いに参考にすべきでしょう。たしかに、「マジ、やべえっす!」という表現は、正しい日本語とはいえないかもしれません。しかし、インタビュー記事を書く以上、現場の空気感を再現し、ときにはインタビュアーの言葉をそのまま活かすことも大切です。

ここからは、メディア、編集者の判断になります。わたしはこの2択に正解はないと思っており、メディアによって選択が変わるはず。しかし、ライターが意見を寄せたことで、この表現を活かすべきか否か検討の余地が生まれるのです。こうした営みが、さらによい原稿をつくるためには欠かせないでしょう。

5.OKを出したらすべての責任を自分が負う覚悟をもとう

先ほども触れたように、記事の編集をすれば編集者に責任が生じます。同時に、編集の工程は記事のミスや好ましくない部分を修正できる最後のチャンスだと思ってください(実際は、デスクや編集長の最終チェックが入る場合もありますが)。

その立場にいる自分が原稿にOKを出したら、以後の責任はすべて自分が負う覚悟で編集に臨むことが大切です。絶対にミスが残らないように、大きな文章の流れから細かい日本語のミスまで、何度も推敲して確認するようにしてください。

というのも、ぶっちゃけ記事や書籍にミスがあったり、炎上したりしても、編集者が負う対外的な責任は案外軽いんですよ(メディア内部では別)。多くのメディアではだれが記事を編集しているかまでは分からないので、そうなった場合は記事を書いたライターやメディアそのものが責められがち。

しかし、編集者はそれを防げる立場にいます。ライターやメディアを守るためにも、責任感を持って業務に取り組んでみてください。

まとめ:編集者は、ライターの補佐役だ

改めて記事の要点を確認すると、「編集が必要な理由」は

  • 責任を取るため
  • 誤字脱字、てにをはの間違いなど、基本的な文章のミスを修正するため
  • 事実関係を確認するため
  • 文章を読みやすく調整するため
  • 「炎上ポイント」を確認するため
  • トンマナや表記など、メディアのルールに合わせるため

です。つまり、編集者とはクリエイターではなく「クリエイターを補佐する人」。良くも悪くも名前は表に出ませんが、ライターを支える縁の下の力持ちというイメージですね。

そのため、目立ちたがりな人よりも、誠実かつ実直に業務に取り組める人のほうが、編集者には向いているかもしれません。

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齊藤 颯人
『Red Pencil』編集長、FP事務所『トージンFP事務所』代表。1997年東京生まれ。上智大学文学部史学科卒業。大学在学中より学生ライターとして活動し、卒業後はそのまま新卒でフリーライターに。歴史やフリーランス、旅行記事などを中心に執筆し、フリーランスメディアで編集者としても活動している。