こんにちは、ライター・編集者の齊藤颯人(@tojin_0115)です。
従来、「メディア」といえば紙に印刷される雑誌や書籍などの「紙媒体のメディア」が主流でした。しかし、インターネットが普及し、Web上で公開される「Webメディア」が増加。紙媒体のメディアは衰退し、Webメディアが主流になりました。昨今独立したライターは、ほとんどがWeb中心にライティングをしていると思います(私もその一人です)。
一方、勢いが衰えつつあるとはいえ、紙メディアも死んではいません。それゆえ、Web出身のライターが、紙メディアで記事を依頼される機会もあるでしょう。
しかし、同じライティングでも、紙メディアとWebメディアのライティングはけっこう違います。なぜなら、紙メディアとWebメディアでは、「メディアとしての特性」が大きく異なるからです。
この記事では、紙媒体のメディアとWebメディアの違いをまとめた後、「Web出身のライターが紙媒体で執筆するうえで気を付けるべきこと」を解説します。
1. 紙媒体のメディアとWebメディアの違い
1. 「実物」の有無
当たり前ですが、紙メディアで記事が完成すると書籍になり、書店に並びます。一方、Webメディアは記事が完成すると、サイト上で公開されて読めるようになります。
紙メディアとWebメディアは「記事を紙などの実物にする」工程が決定的に違います。この違いが、紙メディアとWebメディアの特性を大きく変えているといっても過言ではないでしょう。
少し抽象的になってしまったので、両メディアで記事が私たちの手に届くまでの大まかな流れを整理してみます。
【紙メディア】
- デザイン
- 編集
- 加筆修正
- 校正
- 入稿
- 最終確認
- 印刷
- 製本
- 配本
- 書店に並ぶ
【Webメディア】
- 編集
- 加筆修正
- 入稿(校正しないメディアも多い)
- 最終確認
- 公開
ざっくりですが、紙メディアの場合、Webメディアの2倍の工程が発生します。しかも、Webメディアと異なり「デザイナー」「印刷所」「製本所」「取次」「書店」など多くの組織・人がかかわる必要があります。
反対に、Webメディアの場合は究極に省エネを心がければ、「すべての作業を一人で行うこと」も難しくありません。
つまり、「実物をつくる」ことにより、紙メディアは多くの「お金」「人員」「手間」などを必要とするのです。これが大きな違いの正体です。
2. メディアの数
紙メディアの発行は大変です。それゆえ、雑誌や書籍などの紙メディアを発行できるのは出版社や一部の大企業に限られがち。さらに昨今は出版不況で、紙メディアも数が減る一方です。
しかし、Webメディアは記事の公開を省エネで行えるため、私のような個人から中小企業までが無数のWebメディアを立ち上げています。
つまり、メディアの総数が圧倒的に違うのです。紙メディアは少ないため、ライターのなかでも紙メディアで執筆できる人は限られます。
3. 情報量
紙メディアは、実物をつくる都合上、どうしても「紙面に載せられる情報量」に限りがあります。そのため、執筆する際に文字数や行数が厳格に決められている場合も多く、文字量の融通は効きずらい傾向にあります。
対して、Webメディアなら載せられる情報量は実質無限大です。10万字を執筆するとして、単行本では200ページ程度が必要とされますが、Webメディアなら1ページでまとめることもできるでしょう。文字数を気にしなくていいので、原稿依頼時の文字数制限も「3000字程度」などと臨機応変に設定できます。
4. 成果測定
紙メディアは、仕様上どうしても「記事や書籍の成果」を測定するのが難しいです。多くの場合、成果測定は「売上」で判断されますが、雑誌のように複数人で執筆した場合「どの記事が人気か」までを判断するのは困難です(この弱点を補うために、週刊少年ジャンプが「読者アンケート」で作品ごとの人気を判断している話は有名ですよね)。
一方、Webメディアでは「Google Analytics」などの成果測定ツールが普及しており、「1記事単位」でPVやCV、閲覧時間などを測定できます。成果を活かした施策を打ちやすいのもWebメディアの大きな特徴です。
5. 権威性
紙メディアの少なさは、逆に紙メディアで執筆するライターの「権威性」を高める効果もあります。紙メディアで書けるライターは少ないため、その時点で一定の希少価値が生まれます。この権威性を目的に紙メディアで書きたいと考えるライターも多いでしょう。
さらに、紙メディアには多くの人がかかわり、出版後の修正も効きずらいという特徴があることから、紙メディアのほうが信頼されやすいです。「Webメディアって玉石混交でしょ」というのが世間的な評価。
紙版とWeb版を両面展開しているメディアの場合、紙版で執筆しているライターのほうが高く評価される傾向にあります。
6. 読者層
紙メディアとWebメディアでは、実は主な読者層も違います。例えば、有名Webメディアの記事をまとめて配信している「Yahoo!ニュース」の主な読者層は30代~40代とされますが、紙の週刊誌の読者層は60代以降が中心といわれています(なお、若者はSNSやYouTubeでニュースをキャッチする傾向にあるため、Webメディアすら全く見ない層も多いようです)。
読者層が異なるということは、読者の好む「ネタ」も異なります。特に分かりやすいのは週刊誌で取り上げられるネタ。最近の週刊誌は「エロ」「ゴシップ」といった古典的なネタはもちろん、「病気」「老後の生活」「長寿の秘訣」など、メインの読者層である高齢者の求める企画が多くなっています。
7. 報酬
ぶっちゃけ、紙メディアとWebメディアでは報酬の相場も全然違います。高いのは紙メディアで、安いのはWebメディアです。
比較の対象として分かりやすいのは、紙版とWeb版をどちらも発行しているメディアでしょう。もちろん詳細な報酬額は明かせませんが、全く同じ労力で1本の記事を書いた場合、体感としてWeb版の3~4倍の報酬がもらえます。狭き門ではありますが、割がいいのは間違いなく紙メディアの案件です(まあ、売上に対して報酬が高すぎるゆえに、多くの雑誌が赤字→廃刊のコンボに追い込まれているともいえますが……)
2. Web出身のライターが紙メディアで気を付けるべきこと
では、Web出身のライターが紙メディアで執筆するうえで気を付けるべきことはなんなのか。上記の特徴を踏まえて解説します。
1. スケジュール感を強く意識する
Webメディアの場合、原稿執筆のスケジュールは比較的緩めです。もちろん、厳密な締め切りがある案件もありますが、ぶっちゃけ多少締め切りに遅れてもなんとかなる案件のほうが多いでしょう。
一方、紙メディアの場合は「デザイン」や「製本」の工程がある都合上、締め切りを破るとシャレになりません。迷惑をかける人数も違いますし、最悪の場合は出版物の刊行が止まってしまいます。
Webでも締め切りを守るのがベストですが、紙媒体の場合は絶対に締め切りを守れるよう、執筆スケジュールを上手に調整しましょう。週刊誌などの場合、「レイアウトが決まった次の1日で原稿を書いてください!」と言われることもあります。
2. 「一文字」に強くこだわる
紙メディアの場合、事前に原稿レイアウトが決まっていることも多いです。そのため、「25文字×20行」のように、文字数が厳密に決まっている状況に対応する必要があります。
執筆のポイントは、「一文字」に強くこだわること。文字数が厳密に制限(多くの場合、Webメディアより少なく)されるため、語彙力が求められます。「もっと短い文章で同じ情報を伝えられないか」「体言止めや言い切りなどを駆使して文字数を削れないか」など、細かな表現にも注意してみましょう。
要領がつかめない方は、近所の本屋に売っている週刊誌なんかを一冊読んでみれば雰囲気を味わえると思います。
3. 絶対にミスをしない心がけを
原稿のミスは、どんなクライアントに納品する記事でもあってはならないことです。しかし、そうは言ってもミスをするときはあります。ミスをしたとき、Webメディアなら編集者に頭を下げれば簡単に修正できる場合が多いですが、紙メディアでは修正が極めて困難です。
なぜなら、紙媒体では「書籍」として多くの人の手に渡ってしまっているから。ミスをした場合は出版社のHPにお詫び(訂正)文が掲載されることが多いですが、最悪の場合は回収対応が必要になることも……。
たいていの場合は編集者がミスに気づいてくれますが、ライター側もミスが出ないよう、慎重に原稿を読み返してから納品しましょう。
3. 「実物」がやりがいにつながる
ここまで、Webメディアと紙媒体の違いを解説してきました。どちらにも良いところ・悪いところがありますが、「紙媒体の執筆は少し面倒だな……」と感じられた方もいるかもしれません。
しかし、紙媒体の面倒くささの原因である「書籍化されること」は、最大のやりがいにもなります。私は、自分が執筆した文章が書籍になって手元に届けられたり、本屋に並んだりする光景を見て「ライターをやっていてよかった」と思いました。
仕事がすべて紙媒体というのは大変なので、「Webメディアと紙媒体の二刀流」で執筆していくと、どちらの良いところも味わえるのではないかと思います。